自転車と散歩を巡るワナ

自転車をぎいこぎいこと漕いで歩道の真ん中をふらふらと前進していたところ、道の先にふたつの影が見えました。向かって左には、小走りでこちら側に向かってくるスレンダーな女性。向かって右には、同じく小走りでこちら側に向かってくる nintendogs にでも出てきそうなかわいい犬。おいおいスレンダーウーマン、道幅いっぱいを使って散歩なんかするなよ、すれ違いざまにおまえらを繋ぐヒモにおれの首がチョンパされちゃいそうで危ないじゃないか。デ、デ、デ、デンジャラスレンダーウーマン。ウーーーー! ワナ!!!(せかいのはんぶんをおまえにやる編集者)と思いましたが、人間はどうせいつかは死ぬのだし、首チョンパという劇的な死に方ができるチャンスはこれから先ないだろうし、今ここで死のう、と考え、避ける事もなく僕は前進を続けて彼女らに接近しました。
さて、死の直前となったわけですが、なぜか人生が走馬灯のように頭の中を巡ってはくれなかったので、仕方なく、いざというときのために自転車の籠に入れておいた人生という名の走馬灯に点火して無理やり人生を振り返ることにしました。小学校の入学式の帰り道ではしゃぎ過ぎて転んで顔から着地して背負っていたランドセルの重みで顔面がアスファルトの上をスライドして削られてすり剥かれて、そのあとは傷だらけの顔に風がしみてとても痛くて、数日後には傷が全部かさぶたになってミイラみたいなおもしろフェイスになったなあとか、そういった人生の思い出をくるくると回る手作り走馬灯を眺めながら振り返っていると、いつのまにかスレンダーウーマンもプリティドッグも見えなくなっていたので、あれ、もうここはあの世なのかな? あの世だよな。よおし、あの世一舞闘会で絶対優勝するぜ! 待ってろパイクーハン! などと思いながら、人生を振り返るついでに後ろも振り返ってみると、駆けていくひとりと一匹が見えました。彼女らの間に僕を死へと誘うヒモはなかった。ただの野良ジョギングウーマンと野良犬だった。女と犬には何も繋がりはなく、僕の方に同じ速度で駆けてきたのはただのシンクロニシティだった。
そんなこんなで僕は今日も生きてます。死の淵から歩道の真ん中に帰ってきた僕は生きている事の素晴らしさを体全体で感じ、涙を流しました、なんてことはなく、汗を流しました。いやあ、暑いですよねえ! 関取でぎゅうぎゅう詰めのサウナの中でヨガフレイムを喰らいながら激辛カレーを食べてるんじゃないだろうか僕たちは。そう錯覚するくらい暑いですよねえ!