回想シーン

小学生のころ、近所の家に獅子のような恐ろしい咆哮をあげる犬がいた。そこの家は通学路に面していたので、おれは毎日通るたびに、バウワウと吠えられていて、本当に怖かった。今だってプランクスケールの小さい肝っ玉しかないのだから、小学生当時には観測不能なほどの肝っ玉の小ささであって、犬の咆哮なんてとてもじゃないけど耐えられなかった。あまりにも怖いので、その家の前では、耳をふさいで、犬を見ないようにして全速力で駆けていた。牙を見るだけでちびりそうだったし、咆哮を聴くだけですくみあがって動けなくなりそうだった。そんなことを毎日繰り返していた。おれの通学はいつもその犬とともにあった。
そんな日々が数年続いていたのだが、ある時、犬の姿がはたと見えなくなっていた。そのときは特になんとも思わなかったのだが、来る日も来る日も犬の姿は見えず、小学生だったおれでもさすがに気がついた。ああ、きっとあの犬は死んだのだな。おれが家に近づいて、犬が吠えて、おれが逃げる、そんな当たり前の日々はもう戻ってこないんだな、と。そのときおれは、心の底から思った。
よっしゃあああああああ!!