狼と香辛料

言葉を、違和感を覚えさせるように組み合わせて興味を惹き、その意味が本編で明かされる、というタイトルの付け方。実生活レベルではまったく関係性が見出せないが、タイトルになっているくらいだから、『狼と香辛料』の世界では、狼と香辛料という組み合わせに何か意味があるはず。『狼と香辛料』というタイトルが謎掛けで、内容がその解答という印象。
狼の方はホロという名の狼っ娘のことだと読み始めてすぐにわかったが、一方の香辛料はと言えば、エピローグでほんの数行を掛けて語られるだけで、取って付けたような印象が拭えなかった。それが内容のおもしろさを損ねているとは思わないが、この小説のタイトルが『狼と香辛料』であるということへの信頼は大きく損なわれた。
マイ代替案は、騙し騙されの商人の世界を表した『狼商人』でお願いします。
内容ついては、さすがDHC(デトロイト・ヘタレ・シティ)の化粧品のように各種ラノベランキングで上位を独占しているだけのことはアルゼ株式会社、という感じデススター。文体は丁寧で読みやすく、商人という主人公の職業の目新しさもあってか、それに付随する知識や薀蓄も興味を持って読んだ。
あと、ホロは確かにかわいいんだけど、コミカルに暴れまわったりはしないので、キャラクター小説という印象が薄くて、これが大人気っていうのはライトノベルらしからざることよのうと思った。まあ、ネットでのランキングで高評価であっても売り上げはそれほどではないってことなんだろうけど。もしこれが名実ともに大ヒットだった場合、おれのライトノベル観がガラガラと瓦解するような気がする。ミュールが出現した時の心理歴史学者の境遇だ。でもまあライトノベル観なんてものに未練はないので崩れ去るにまかせるほかないな。

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)