息吹

現実と異なる世界での生活について緻密に書かれているのではじめのページからまずわくわくする。筋立てとしては、調度一時間かかるはずの詩の暗唱が、同時多発的に一時間以上かかってしまうという不可解な出来事があり、その原因を探っていくと……というもの…

1/1,000,000,000のキス(紫色のクオリア所収)

140ページでライトノベル年齢時代をふりかえって25歳が談笑したとき、お話のスケールがライトノベル場所とライトノベル年齢から開放されることを感じられて、そろそろ本を閉じようかなあと思っていた心が引きとめられた。 295ページで折り重なる平行世界の自…

セカイ、蛮族、ぼく。など

伊藤計劃が亡くなった。その後公開されたセカイ、蛮族、ぼく。を読んだ。「蛮族」が主観的には「蛮族に生まれたので蛮族」だったという話で大変おもしろかった。疎外感や空虚さを感じ、蛮族に生まれたことを嫌悪しながらも、それでもやはり蛮族だからという…

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記

深堀骨を説明するのは 「Wiki見れ」*1 のひとことで十分だと思ってるんだけど、実際にそのひとことだけで済ませてしまうと「WikipediaをWikiを略す奴は殺す!」「得体の知れない個人の文章でしかないWikipediaを主張の拠り所にする奴は殺す!」「合わせて二…

死神の精度

伊坂幸太郎といえば伏線からのカタルシスが強烈という印象がありますよね。セーム・シュルトといえば首相撲からの膝蹴りが強烈だっていうくらいに。 それで、この死神の精度はと言うと、伏線が繋がって気持ちいいというところはいちおう健在ではあるんですけ…

エンダーのゲーム

500ページ以上読んでおいて感想といえば「ピーター悪いなあ。ヴァレンタインかわいいなあ」だけなのでどうしたことかと思ってしまうけど、そういう感想になるのにもいちおう理由はあって、それは主人公にして人類のヒーローとなるエンダーが小さな子供だって…

最後の喫煙者

全国的に喫煙者が弾劾され尽くし、ついに最後の喫煙者となった男が、嫌煙家やマスコミに追いたてられて屋上に逃げ込み、残り少なくなったタバコを吸い、「ニコ中死ね!」という罵倒を浴びるというネタバレだけど、これが「ニコ厨死ね!」ならどうだったろう…

人間以上

ちょいとしたテレパシー受容能力を持つ言葉を知らない白痴や重度の箱入り娘の行動や思考がたどりやすい! すごい! と思った。社会に所属していない彼らを自然と理解しながら読んでいるだけでおもしろすぎて、最初の数ページからもう取り憑かれたように読み…

80年代SF傑作選<下>

『竜のグリオールに絵を描いた男』(これは上巻所収)、『祈り』、『ぼくがハリーズ・バーガーショップをやめたいきさつ』はおもしろかったわ。とても良かった。それら含め、ファンタジーや素朴で古典的なSFなどが多かったので、何が80年代なんだかSFなんだ…

人類は衰退しました 二巻

期待に胸を膨らませて読んだ一巻は、妖精の世界とか妖精とのコミュニケーションとか作品世界の雰囲気がひたすら描写されて、大したことは何も起きない日常のおはなしだったので、感想も何もなかった。おもしろい出来事が起こってないのでおもしろいと思う取…

ユニヴァーサル野球協会

本書の刊行から40年経った今では、サイコロや表を使って手作業で数ヶ月かけて一シーズンを送るようなことをしなくたって、野球ゲームを遊ぶだけで簡単に野球リーグを実現できるようになっているわけだから、自分だけの野球リーグ運営の敷居ってのはかなり下…

空にふれた少女(キリンヤガ所収)

そんな真の『魔法をかけて!』は『空にふれた少女』のカマリにも通じるものがある。キリンヤガ住民としてはキクユ族っぽくなければいけないけれど、空に触れてしまったらもう空を望まずにはいられないカマリ。 いや別に特筆するほど似ているわけじゃないんだ…

素粒子

プロローグでミシェル・ジェルジンスキがキリスト教の出現に比肩するくらいの全人類的な世界観の変異のきっかけとなったよと書かれ、本編の現代的な世界観パートを挟み、エピローグでその全人類的な世界観の変異が書かれているんだけど、現代の生々しさに比…

ポイポイポイ

ポイポイポイおもしろいですけど、それはそれとしておれの考えた金魚すくい必勝法を紹介します。ひとことで言えば、待ち。金魚の死亡待ち。体を横向きにして金魚が水面に浮いてきたらそれを撫でるように掬う。水面から掬うだけなので水の抵抗が少なくてすむ…

不気味で素朴な囲われた世界

やったー。嬉しいことにすごいおもしろかった。 ネコソギラジカルとかりすかとかにある往年のジャンプを思わせる異様な能力を持った人が格闘するシーンが好きじゃなくて……というと、「好きじゃないなんていうからにはさぞ万人が納得する論理的な理由があるん…

輝くもの天より堕ち

凄惨! 幼女虐待死! の報を聞きつけ現場に直行した僕は、ズタズタになった幼女の姿を見た途端、哀れみや悲しみや幼女を救えなかったくやしさや犯人への怒りなどがいっぺんに押し寄せてきて、涙をこらえ切れずにうなだれていたが、しばらくして、よく話を聞…

分解された男

成り上がりチンピラ社長とエスパー警察官との頭脳戦という様相で、古い作品ながら別段科学についてつっこんでいるわけではないので古さは感じないし、翻訳も最高に上手いし、潜在意識から消すことの叶わない犯罪の計画や記憶を陳腐なコマーシャルソングのサ…

Boy's Surface

姿形なんてどうでもいいよと冒頭に書かれているにもかかわらず、レフラー球の青さだけが作中でたびたび言及されるのは、Boy's Surface を直訳すると『青』年の表面だからに違いありません。こやつはふざけているのです。それだけならただのダジャレだねうふ…

暗号解読

「これが解けたらIQ114相当!」とIQサプリでもに扱われそうな、古代ローマのアルファベット入れ替え暗号から、鋭意製作中(開発度3%)の量子コンピュータと量子暗号による暗号最終決戦の展望まで、数千年に渡る暗号の作成および解読の歴史を、キーとなる人…

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

著書のタイトルと年齢とその他もろもろによって、栗山千明、あるいは本書の表紙のような風貌だったらいいよねー、と思っていたけど特に実物を見ようとはしていなかったのが本谷有希子なんだけど、今日めざましテレビに出ていたのを見た。挙動不審な文化系女…

Self-Reference ENGINE

SFマガジンから個人ブロガーまでが、ひたすら著名SF作家の名を挙げ、本書がそれらの長所の合わさった超傑作であるかのように絶賛していることについて、首が折れるのも厭わないほどの勢いで首肯。すごくおもしろかった。 内容について書いてしまうのがもった…

シャングリ・ラ

香凛はマーケットの中心で救済を叫んだ。 「誰か助けてえっ!」 528ページまできて信じられないようなベタな時事ネタパロディが現れたもんだよ。可笑しい。横隔膜と頬はぶるぶると振動を始め、冬の乾燥でかさついた唇もぱっくりと割れ、あとはガハハと言えば…

グリーングリーン ナイショの同級生 おとこのこおんなのこ

おとこのこおんなのこはおもしろくて妹もかわいかったので、ただ満足したのひとことなのですが、それよりも問題はナイショの同級生ですよ。 犬を助けた過去がフラッーシュバックバック、ヒロインの描写には「犬のような」という形容が頻発。ふむん、ヒロイン…

夜は短し歩けよ乙女

一章を読んだときにちょっと感想を書いて以降放っておいていてたんだけど、携帯ゲームの世界樹の迷宮と据え置きゲームのギアーズオブウォーに追われて読書する暇もないので、一章を忘れていない今のうちに読んでしまおうと続きを読み始めたらら、あまりに面…

鼠と竜のゲーム

毎日の終わりに自分のブログを開く生活を送っているとなんだかブログが我が家みたいに思えてきて日記を書くたびに最初にただいまって挨拶したくなっちゃうのただいま我が家! そしてみなさんウェルカムトゥーマイウェッブローグ! だけどごめんねディスブロ…

夜は短し歩けよ乙女

息をするように空を飛び、雨が降るように鯉が降り、散歩をするようにストーキングをします。 現代を舞台として幻想的な現象が起こるのは森見登美彦氏まいどのことなのですけど、この小説は、現実と幻想とがいままで以上に綺麗に融和していると感じました。見…

ブラッドジャケット

超おもしろかっこよかった。 前作ブラックロッドは、独特の造語などに彩られた玉石混交の世界で吸血鬼たちが大暴れするという熱気ムンムンな快楽ストーリーだった印象だが、これは、もちろん前作と同じ作品世界内ではありながらも、世界の描写や造語は主張が…

折れた魔剣

ハイ・ファンタジーと明確にカテゴライズされている作品を読んだ経験が少ないことにたぶん因って、ファンタジー(と明確にカテゴライズさ……)がめちゃくちゃおもしろすぎて飛び跳ねたという経験がないので、ファンタジー(と明確にカ……)は好きではないとい…

ひとりっ子

テレビ出演のときもいつもふたりでひとつの回答席。台本どおりに同じ回答を同時に発言。ギャラもふたりでひとりぶん。小さかったころは良かったけれど、もういやなの。だれもわたしをカナ/マナだとわかってくれないのは。だって、「こんにちは、マナカナち…

スローターハウス5

タイタンの幼女といい、時間を飛び回ることを当たり前のように受け入れている主人公ってのは心地良い。過去今未来をすべて知っている生活。それは特別なことのように思えるけど、実は日常と何も変わらないのかもしれない。過去も未来も想像のできる落ち着い…