ひとりっ子

テレビ出演のときもいつもふたりでひとつの回答席。台本どおりに同じ回答を同時に発言。ギャラもふたりでひとりぶん。小さかったころは良かったけれど、もういやなの。だれもわたしをカナ/マナだとわかってくれないのは。だって、「こんにちは、マナカナちゃん」ってそんな挨拶がある? 私は私。私を区別できない全員が嫌い。みんな死んでしまえばいい。でもそれは無理だから、手っ取り早くマナ/カナを殺そう。そして私は私だけになるんだ。それとも、マナ/カナも同じことを考えていて相打ちになったりするのかな。なんなんだろう、わたしたちって。同じように生まれて、同じように育って、同じように考えて、同じように殺す。わたしは、マナカナっていうひとりっ子だったのかなあ。

というマナカナ小説かとタイトルから思って、別にマナカナフリークでもないおれは素通りしかけたけど、なんとなく二度見したところイーガンの短編集だったのでびっくり。そして購入リーディング。てっきり次に出るのは来年の『TAP』だと思ってたよ。
思ったより既読のがあったけどおもしろかった。
『ルミナス』
ごった煮だった原初宇宙のいろんな場所でランダムに生まれた事象から、それを説明する論理が副次的にひねくり出されただけで、数学は絶対でも純粋でもない。生まれた論理の数だけある。似て非なる数学たちがたくさんある。そして、その数学たちが互いの境界で論理の押し合いへし合い(御飯とセルのかめはめ波対決)をしてせめぎあっている。あるいはライフゲームを。そんな小説。数学がただの原始的な生物のように振る舞うのは狂気じみていて楽しい。あと、名前が似てるって関係しかないけど、『Lumines Live』は日本タグにいつになったら配信されるのか。されないのか。
『決断者』
主人公が卑屈っぽくて良い。(おれはおまえをいつでも殺せるけど、おれは殺さないことを選択してやってるんだ)と思いながらいつも行動しているので笑った。話としては、自分の中に潜む選択者、自分の意識の核、そういったものの有無について、はっきりと無いという洞察があたえられるので痛快。論理に続いて意識もランダムよ。まあ、意識が決定論的だと結論されたらその方が怖い。
『オラクル』
これは中高生くらいのときに読んでたらオールライフベストになりそうだ。未来からやって来て主人公を先導して科学を押し進める美少女ヘレン。本当はすごい待ってる僕を連れ去ってくれる理想の天才な女の子。だ。あとキリシタンのハミルトンがすごい偏屈でヒールとして際立っているなあと思ってたら、討論シーンですごい論理的に攻めてきていて盛り上がった。『ひとりっ子』との連作だってことを踏まえればヘレンの壮大な意図が解かり、歴史改変ものだってことを踏まえればチューリングとルイスについてなんか感想を抱くんだろうけど、両方にまったく気づかずに読んでいたので、知らん。歴史とは関係がなく、ほかの小説とも関係が無い小説だった。おれにゃあよぉ。

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)