シャングリ・ラ

香凛はマーケットの中心で救済を叫んだ。
「誰か助けてえっ!」

528ページまできて信じられないようなベタな時事ネタパロディが現れたもんだよ。可笑しい。横隔膜と頬はぶるぶると振動を始め、冬の乾燥でかさついた唇もぱっくりと割れ、あとはガハハと言えば笑いが成立するだろう状況になった。だが、ブロガーをやっているからには、コーヒーを噴くことで可笑しさを表現しなければならない。仕方ねえってんでコーヒーを探すが、いくら探せど家にコーヒーはない。早く噴かなきゃこの可笑しさが消えてしまう。いまはこんなに可笑しいのに。ああ可笑しさという名の感情の萌芽に、コーヒーという名の恵みの雨水を、霧吹きのように噴き出してあげたいなあ。おれは家を飛び出して喫茶店へ走った……。「カランコロン。コーヒーをください」「はい。こちらコーヒーになります」「グビグビ。ブフゥーー!」 急いだ甲斐あってなんとか間に合った。「ガハハ」 と花開くおかしさよ……。だが、なんか味が……色も……こ、これは! 「なんと! 紅茶じゃねえかよプンスカー! とりかえろ」 はいすいません、と言ってウェイトレスはコーヒーを持ってきた。しかし、肝心の可笑しさはウェイトレスへの怒りに取って代わられてしまっていたのだった。完。
閑話休題。上記の『世界の中心で愛を叫ぶ』のパロディまで読んでやっと、この小説を娯楽として吹っ切って楽しめ始めた。設定が重厚なものだから、あるていどハードなSFだと思って読み始めたんだけど、しょっぱなから天才美少女が主人公ですなんてことになったのでびっくり、さらに経済を牛耳る天才美少女がでてきてびっくり、戦闘シーンではみんなが超人でびっくり。と全然常人がいなくてびっくりし通しだったんだけど、地の文でいけしゃあしゃあと時事ネタをパロったことで、これは荒唐無稽なキャラクターもので、楽しければそれで良いものなんだという割り切りが持てた。それ以後は本当にエンターテイメントとして楽しめたので、心の持ちようで感想なんて変わるもんだなあと思った。どうせなら一ページ目でパロってくれよーとも思った。

シャングリ・ラ

シャングリ・ラ