1/1,000,000,000のキス(紫色のクオリア所収)

140ページでライトノベル年齢時代をふりかえって25歳が談笑したとき、お話のスケールがライトノベル場所とライトノベル年齢から開放されることを感じられて、そろそろ本を閉じようかなあと思っていた心が引きとめられた。
295ページで折り重なる平行世界の自分たちを貫くひとつのものが視覚的なイメージを伴って提示されたとき、私の手の中で折り重なる295ページもまた貫かれ、繋げられた。
終わりよければ、終わりよし。よい終わりだった。
それ以外については、論理的に考える能力に長けていない女子中高生の視点で、空間と時間と平行世界を行き来するお話である以上もっともらしいとも言えるんだけど、本やWikipediaの受け売りのような物理の話があらわれるのが気になった。そういったものに現実とのつながりを感じてしまって楽しくなかった。私はおまえらの世界に光やシュレディンガーの猫量子コンピューターが存在するなんて認識してなかったよ。しかもそれらは、空間と時間と平行世界とを行き来するとんでもない現象の説明としてももちろん不足しているので、ただのたとえ話にしかすぎなかった。それならば、私には要らなかった。量子力学は物語の敵だよ。世界が平行するとすぐに顔を出す。出せばもう無視することはできない。全身を見たくなる。顔を出させてはいけない。いっそ、うえお理論です、のひとことでは済ませられないものだろうか。不足した説明は物足りないけど、ブラックボックスで説明されたらそういうものだと思うしかないもの。
という気持ちもあるけど、そうもいってられなくて

「そう、あたしは量子コンピューター! 量子の性質を使って、無限の世界の無限のあたしで思考し計算できる存在! まさしく量子コンピューター脳!」
p232

がおもしろかったので、量子力学は必要だった。今、説明が熱い。

紫色のクオリア (電撃文庫)

紫色のクオリア (電撃文庫)