ユニヴァーサル野球協会

本書の刊行から40年経った今では、サイコロや表を使って手作業で数ヶ月かけて一シーズンを送るようなことをしなくたって、野球ゲームを遊ぶだけで簡単に野球リーグを実現できるようになっているわけだから、自分だけの野球リーグ運営の敷居ってのはかなり下がっているんだけど、そんなテクノロジーの力を借りてもなお、ヘンリーのユニヴァーサル野球協会の作りこみにはまったく手が届かない。ユニヴァーサル野球協会には、サイコロと表(今ならゲーム)からもたらされる成績や記録だけでなく、各選手の年齢、体格、性格、血縁関係などの設定まできちんと用意されてあるし、試合時には打撃や投球に付随した各選手の表情や仕草があるし、また試合後には選手たちが酒場で飲みながらゲラゲラ笑いあうし、さらにはその試合についてのスポーツ紙の記事、ライターの論評、スポーツうるぐすの江川な人、などなど野球にかかわる様々なメディアまで存在するし、加えて、野球協会内での権力闘争があったり、野球史をまとめた本が書かれたりといった、直接試合とは関わりの薄いような範囲まで、このすべてがヘンリーひとりによって想像されているという驚異。もはや想像の産物であるということ以外のすべてが野球らしい。ぼぼぼくにはとてもできない。ヘンリー畏怖。
という野球好き視点を別にすれば、野球ゲームに取り憑かれて人生を破綻させてしまった中年男性の物語なので、哀愁がものすごかった一方で、身につまされる思いだった。心が痛むぜ。

ユニヴァーサル野球協会 (新潮文庫)

ユニヴァーサル野球協会 (新潮文庫)