分解された男

成り上がりチンピラ社長とエスパー警察官との頭脳戦という様相で、古い作品ながら別段科学についてつっこんでいるわけではないので古さは感じないし、翻訳も最高に上手いし、潜在意識から消すことの叶わない犯罪の計画や記憶を陳腐なコマーシャルソングのサビを頭の中でグルグル繰り返させることで無理やり覆い隠すっていう妙に卑近な対エスパー戦術もおかしいし、よくできているなあと思って読んでいたら、残り30ページくらいのところで、縮小していく現実の中で無が近づいてくる恐怖がいきなり描かれて、うげー怖いーと思ったら、最後には精神、宇宙、未来についての明るい展望で締められた。突飛といえば突飛な終盤ではあるけど、猛スピードで大空に飛翔していったストーリーの尻尾に必死でつかまって風をびゅんびゅん切っているような感じでね、←比喩、なんか清々しさを感じた。SFの未来像に清清しい気分でいられるなんてのは、本当に読んだ甲斐があったというもの。よくできているでは済まない傑作だった。すごかった。

分解された男 (創元SF文庫)

分解された男 (創元SF文庫)