僕の千切れそうな思い

腕が千切れそうな思いで持ち込んだ本とゲームとDVDと呪われし姫君を、どっかとカウンターに置いた。「これ、お願いします」買い取りだと的確に判断したらしく、店員は「このカードを持ってお待ちください」と11番の番号札を僕に渡した。札を受け取ると、何を見るでもなく僕はふらふらと店内をうろつきはじめた。査定を終えた店員の呼び声を聞き逃すまいと耳に意識を集中しているから、商品を見る余裕などないのだ。査定する店員。聞き逃すまいと耳を澄ます僕。査定する店員。聞き逃すまい聞き逃すまい査定する店員聞き逃すまい聞き逃すまい聞き逃すまい「十一番のお客様」聞き逃すまい聞き逃すまい聞き逃すまい「十一番のお客様」うるせえこっちは聞き逃すまいと集中してるんだから喋るなよ聞き逃すまい聞き逃すまい「十一番のお客様」だからうるせえおれは聞き逃すまいと……目の前に突然店員が現れた。「お客様、査定が完了しました」にこっ。「……はい」くそ、店員の呼び声を聞き逃すまいと耳に意識を集中することに集中しすぎて、聞き逃してしまった。度を越してしまえば何もしないのと同じ。なべて世は二元なもの。何を極め、何を信じ、何を衒い、自分では前に進んでいると思い込んでいても、その実、ふたつの場所を行ったり来たりしているだけ。進んでいるのではなく、振動数が増えているだけ。波形は変わりはしない。
本というのはなかなか手放す気にならないものだけど、だからといって手放さずに買ってばかりいると当たり前のように増えまくる。だから増えまくった。邪魔だ。整理だ。さてやるぞ。と思い立った勢いに任せて整理してみると、もったいないなんて思ってたのが嘘のように、半分以上が処分品に分類されたのでびっくり。はじめの一歩を踏み出せば、あとは楽に進むものだねえ。高校の物理の教科書タン(高校の物理の教科書を擬人化したオリジナルキャラクター)曰く、「動摩擦係数よりも静止摩擦係数の方が大きいってことフィジ。エロゲーの物理の授業って黒板に E=mc^2 って書いてあることが多そうな印象があるフィジ」ってことだ。
そんなわけで第一段落のようにいろいろもろもろ売ったところ、(たぶんおれは化かされていて、そのマネーを買い物に使った瞬間にモクモクと煙を出しながらエロDVDに戻るんだろうけど)たくさんのマネーに化けたので、もともとカルドセプトサーガの発表によっておれがキルされかけているハードである、Xbox360がとっても欲しくなってきた。ソフト二本付きコアシステム+ハードディスクか、通常版かどちらか。
というか、カルドセプトサーガ以外にも、今年の年末は、もうちょっと分散させろよと言いたくなるくらいにビッグタイトルが発売されて、買わない理由が思いつかないほどの充実ぶりなのがXbox360なので、買ってないおれが言うのもおかしな話だけど、Xbox360の売れなさは本当に不思議。おれみたいなやつが流れて最近は売れはじめていると言われているけど、1500台/週だったものが2000台/週になったくらいじゃあ、誤差みたいなもんであって、ノット有効数字だ。
ところで、ふと見てみたら、本当に腕が千切れていた。いままでずっと千切れていたのか。まったく気づかなかった。重力に気づきさえしなければ空を飛べるように、腕の不在に気づかなければキーも叩けるし普通に生活もできるということなのだろうか。きっとそうだ。そうとしか思えない。……とは書いてみたものの、腕の不在に気づいているのにこうやってこの段落を書けている理由がわからない。なんでなんだよ。誰か、教えてくれよ。