ディアスポラ こんなに再読したくなる小説は生まれて初めてだ!

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

前回(id:wtnb18:20050926:aaa)は序盤を読んだ段階で難解だから薦めないなんて書いてしまったけど、30ページくらいで、ヤチマがこんにちは! を連呼するシーンでかなり和むので、それからはハード SF という肩の荷が降りて楽しくすらすら読める。それ以後にも難解なことがらはいくつか出てくるけど、その背後をつらぬく大筋のストーリーを知っているので、その難解な部分を理解できなくても先に読み進められる。すらすら。だけど、ストーリーもなにも知らないしょっぱなにいきなりああも難解に書き出されると、投げ出すには十分な理由になってしまうのはやっぱり否定できないので、次に訳される "Teranesia"(再来年くらいだろうなあ、遠いなあ)が、わかりやすい書き出しであることを願う。
と、ほかの読者に気を使っていても仕方ないので自分の感想をネタバレほぼ無しで。一部ネタバレ有りで。
イーガンの長編は、「長編数本分のアイデアを詰め込んだ」と言われることが多いけど、ディアスポラは「長編数本分のアイデアを積み上げた」と言いたい。口を酸っぱくして言いたい。今までの長編だと、いろんなアイデアが孤立していて、アイデアは多くても相乗効果はいまひとつなかった気がするんだけど、ディアスポラでは、ひとつのアイデアがあってそれにおれが震撼していると、それの上位のすごいアイデアがおれを包括していることが明かされて、まさにアイデアの Un* やでー。という感じだった。イーガンは小説を書くのがうまくなったと偉そうにも思う。あるいはおれがこういうワイドスクリーン・バロックが好きなだけかもしれないが。どっちもだろう。
連作短編形式が功を奏したのか、ページをめくるごとに、そして部を追うごとにどんどん盛り上がっていくので、最期までだれるところは一切ない。盛り上がりきったと思ったらさらに上がる。射精させられたあとすぐにまた射精させられるサキュバスゲーのようだ。
ブランカ萌え!!! 層状の海の中で見えるブランカの姿と、層状の宇宙での遺物の姿が対になっているので、ブランカはトランスミューター。
大森望は「あらゆる文学形式のなかで SF だけが与えうる深い感動。そのもっとも純粋なかたちがここにある」と解説とオビに書いていたけど、おれはね、もう一歩踏み込んで「SF が与えうる感動のすべてがここにある」んだと思ったよ。すべてだと。