かわいい孫には旅をさせよ

満員のスタジアムは僕を独りにさせる。重なり合い、雑音のビージーエムと化す歓声を張り上げながら、一様にスタジアムの中心を見つめる人々は、まるで違う世界の住人のように思える。透明人間にでもなったような気分で、僕は、人間観察が趣味の僕は、彼らを観察していた。ぴょんぴょんと飛び跳ねる大学生ふうの男、ビール片手に汚い野次を飛ばすスーツ姿の男、双眼鏡をのぞきこむ老婆。ん、なんだあれは? 祖父の目と眼鏡の間に一枚ずつカードをねじ込む遊びをする幼女。試合には目もくれず、祖父の目と眼鏡との間に集中する幼女。子供らしいといえば聞こえはいいが、ただの不条理な遊びだ。何より不思議なのは、視界が塞がれていくのを微笑んで受け入れながら、試合を見続ける祖父だ。見えない試合になぜ目を向け続けるのか。孫の行為は何であっても受け入れるのか。
「(……おい爺さん、眼鏡まわりがカードだらけだぞ)」