山井−岩瀬

おれにとって野球ってのは、なによりも個人成績の上下動を見てニヤニヤするスポーツなので、特定のチームが好きとかいう意識はあんまりない。ちっさいころに野球に興味を持ったとき、野球を好きならば好きな球団が必要だと思って、判官贔屓やらなんやらで阪神ファンになることにした。それ以降どこファン? と聞かれれば阪神と答えるていどには阪神ファンだけど、それほど熱を入れてはいない。球場よりテレビのほうがボールが見やすいから好きというようなチーム応援意識の低い人間だ。
そんな風に地味な楽しみかたをしているので、わざわざ日記で言及するような出来事は基本的に起こらないんだけど、日本シリーズ第五戦の九回ピッチャー岩瀬はさすがにびっくりした。八回までパーフェクトの人間を交代させた事例なんて知らなかったので、当たり前のように山井がでてくると思っていた(数年前、じゃんけんで勝って先発の権利をもぎ取り、その試合で完封をしたというおもしろエピソードを持つ選手なので、完全試合でさえ山井ならやりかねないという気分もあった)し、球場も山井コールだったし、完全試合って見たことなかったから見たかった。
で、インターネットのひとにもこの采配には衝撃だったらしくて、是だの非だのとかなり多くの言及が見られたんだけど、それらを見ていると、落合采配に賛同するにしろ否定するにしろ、岩瀬に代えたことで勝つ確率があがったという前提が見受けられた。勝つことだけを考えた落合采配の是非という論点。これが腑に落ちなくってなー。
というのも、そもそも山井より岩瀬が良いってのが自明だと思えないんだよ。岩瀬の今シーズンの成績(防御率が2.44、WHIPが1.05)を見る限り、期待できる投球はその日8回までをパーフェクトに抑えていたピッチャーの投球よりも優れているとは思えないし、ながねん安定して好成績を挙げていることへの信頼という中日ファンおよび監督特有の感情はあるのかもしれないけど、信頼なんていう数字に表れない好悪の感情で完全試合というお祭りの開催を中止するのは釣り合わないように感じるしなー。「絶対的な守護神」とか「勝利の方程式」とか地上波スポーツ中継的な盛り上げフレーズに関しては、実際の岩瀬(ほかの抑えにも言えるけど)は59イニング16失点のピッチャー、少なくとも絶対的ではないとしか言えない。なので、今回の采配が勝率アップに繋がったか否かなんてことは判断のしようのないことであって、ましてや前提になんてするのはのっけから首を捻るよ。
いちおう結果を書いておくと、岩瀬は三者凡退に抑えてパーフェクトリレーという最良のものになったので、これが采配が正しかったことの根拠とされたりはしているんだけど、おれは九回に起こったことではなくて、その前にピッチャーを代えたことにびっくりしているので、抑えたからどうこうという結果論は知ったことじゃない。起こったことは100%の確率で起こったけど、起こりえたことの確率はまったくわからないままなのだから関係もないし。
とにかく、そういった良いんだか悪いんだかわからない謎采配によって十年に一度の完全試合日本シリーズに限れば初めての完全試合の可能性が絶たれたってのが残念だった。
例えば、八回表の最後のバッターがピッチャーライナーを打って山井の命より大事なゴーグルが割れちゃって明らかに魂としか見えないものが上空に飛んでいったとかなら、チームの勝利という大きなリターンのために、完全試合の可能性を放棄した上に岩瀬が打たれたら非難轟々というリスクを負って継投ってのも男らしいとも捉えられるんだけど、今回の継投はただリスクだけだ。
おれには落合の肩を持つなんてことは到底できやしない。彼の肩はなめらかでローションまみれだ。