百物語 - エルヴィスは生きている(68/100)

エルヴィス・プレスリーそっくりさん大会に出場するみんなは大の仲良しです。仕事も悩みもなにもかも忘れて、仲間たちといっしょにただエルヴィスになりきれるこの日が大好きです。
今年も大勢でエルヴィスの格好をして、ヒット曲を歌い合って大いに盛り上がりました。
日暮れ前に大会が終わると、楽しい雰囲気のままジョーの家になだれ込み、飲めや歌えやの大騒ぎ。明け方近く、みんなが騒ぎ疲れてきたころ。誰ともなく、今日の大会のビデオを見てみようと言い出しました。
ジョージのぎこちなく腰を揺らすエルヴィス、デイビットの音痴なエルヴィス、ボブの禿げあがったエルヴィス、サムの太ったエルヴィス……。ぜんぜん似ていない出し物の数々にお互い笑いあっていると、ジョーが、おかしなエルヴィスが映っているのに気づきました。
そのエルヴィスは、婀娜っぽい腰の動きも力強い歌声も引き締まった体も、そして顔立ちまでもが完璧なエルヴィスでした。
エルヴィス本人だと誰も感じとりましたが、もちろん大会にはエルヴィス本人は参加していませんでした。そもそもエルヴィスは三十年以上前に亡くなっていますから。
めいめいがこのエルヴィスについて考えをめぐらせていたか、あるいは只のファン心理だったのかもしれません。そのエルヴィスが出てきてからは誰もが口をつぐんでビデオに見入っていました。
数十分後、最後の『グッド・ラック・チャーム』が終わると、おもむろにデイビットが口を開きました。
「これが『エルヴィスは実は生きている』という噂が広まっている理由なんじゃないかな」
亡くなってから何十年も経つのに、こうやって多くの人に自分が愛されているのを見ると、ファン思いのエルヴィスは思わずこちらの世界に顔を出してサービスをしてしまう。そんなところなのではないかと彼は言うのです。
私たちはそれを信じることにしました。だって、亡くなってもなお私たちのことを楽しませてくれるくれるなんて、素敵なエルヴィスらしいでしょう。私たちはエルヴィスのことがより一層好きになりました。
こうしてファンの心を繋いだエルヴィスの遺族はより一層儲かりました。