スタントマン★イグニッション

ライバルカーのAIが頭いいとか大きなフィールドをフリーローミングできるとかそんな人目を惹きそうな要素はないのよ。コースは狭く、通るルートも決まっていて、少しでも逸脱したらフレームアウトで撮り直し。コース中を走る車はすべて動きが固定されていて自車の動きにはよらない。AIどころかスクリプトという感じでさえなく、レールを滑っているトロッコみたい。
そういうゲームだけど、そういうゲームであることには文句のつけようがない。だってカースタントだもん。監督の望むカットを撮るために必要なだけのコース(セット)があって、それぞれのドライバーが役割を忠実にこなして運転する。撮影ってそういうものでしょでしょ? おまえは黙って練習してコースや車の配置をすべて覚えればいいんだよ。
そういうことだ。
しかしこれだけでは机上の空論。論理はわかるけどゲーム自体はつまんなかったりしそう。
でもスタントマンがしっかりしてるのは、撮影という設定の根幹を成す存在である監督が、ゲーム中いちいちおもしろいことを喋るってことだ。これによって監督がすごい存在感を放っているから映画の撮影だという雰囲気が強固になっていて、上で書いたような要素やひとりで走るだけという単純さや繰り返しプレイが必須なデザインが、欠点どころか、あって当たり前の要素、撮影のリアリティってくらいにまで押しあがっているのよ。

 失敗をおもしろいと感じさせるために、バーンアウトは多大な開発費と時間をかけてクラッシュの瞬間にスクラップと化す車をスローモーションで緻密に描く技術を開発した。
 
 一方、スタントマンはおもしろいことを喋った。

思えば、おれは英語版の体験版をやったときは、何言ってるかわかんなかったから、そういう場の雰囲気を感じられていなくて、平凡なゲームだとしか思っていなかったんだよな。気の利いた音声ローカライズをありがとうTHQジャパン。ローカライズがなければおもしろさを内包してるゲームだなんて気づくことさえなかった。