トラベリング

海沿いを疾走するバイクが荒い路面を跳ねるたびダダル、ダダル、ダダル、ダダル。運転席の宇多田ヒカルが振り返る。
「真くん、トラベリングはどう?」
「はい! めっちゃめちゃ気持ちいいですよ宇多田さん! 風に当たってるとなんだかスカっとしますね!」
ダダル、ダダル、ダダル、ダダル。
「だろー。いいよね。わたし、仕事に疲れたらいっつもトラベリングするもん。真くんも最近疲れてるみたいだからさ、今日はリフレッシュだぜーと思って呼んだの。でもさ……前も言ったじゃん。わたしのことはウタピカって呼べってさー。デビューしたときはみんなヒッキーとかウタピカとか呼んでくれて、おー愛されてるぜとか思ってたのに、気づいたらみんな宇多田さんとか呼ぶようになっちゃって、あたしゃ悲しいよ。ぐすん。……年をとったっていうだけなのかもしれないけどさあ。なんか対等な立場で誰も見てくれなくなったみたいじゃん?」
「宇多d……あ、すいません。ウタピカ……さんでも、そういうことを考えるんですね。ボクもりりしいとか言われて悩んだりします。本当はシャンシャンプリプリなアイドルになりたいのになあ。ちぇっ」
ダダル、ダダル、ダダル、ダダル。
「でも、真くんのシャンシャンプリプリなアイドルって、「まこまこりんナリヨ〜、きゅんきゅん」でしょ? やーあれは無いって。ふふふ。笑える」
「もう、笑わないでくださいよ! 本気なんですから。ウタピカさんだって語呂が悪くて呼びにくいですよ!」
ダダル、ダダル、ダダル、ダダル。
「ごめんごめん。笑っちゃっただけでわたしは嫌いじゃないぜ、まこまこりん。ていうか、ウタピカって呼びにくかったんだ。おろろ」
「あー、えーと、はい、ちょっとだけ」
ダダル、ダダル、ダダル、ダダル。
「まあ、薄々感じてはいたんだけどねー。でもだからこそこうやってトラベリングで気を紛らわせるのさ俺たちは。とか。たぶん。こうやって走って風に当たっていると楽しくなるぜ。よくわかんないけど青春だぜ」
「そうですね! ところで、今日のトラベリングはどこへ行くんですか?」
ダダル、ダダル、ダダル、ダダル。
「遠くならどこへでも〜♪」
ダダル、ダダル、ダダル、ダダル。
ダダル、ダダル、ダダル、ダダル。

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