ミラクルミラクルミララララー

原田宇陀児ような暑さ*1に開け放っていた窓から何かが猛スピードで飛来し、おれの頭をかすめて後ろの壁にズドーン!と音を立てて突き刺さった。
よく見るまでもなく矢文だと思った。
頭をかすめて壁に刺さるのは矢文に決まっているという先入観だ。普通に殺すつもりの矢がちょっと逸れて頭をかすめて壁に刺さった場合でさえ、文をつけ忘れた矢文に決まっているのだ*2。こんな矢文観は忍たま乱太郎の影響だろう。あと先入観と矢文観は字面が似ているので、矢文観をせんにゅうかんと読んでしまった人もいるだろう。
さらに想像を進めると、ズドーン!と迫力のある音が鳴ったくらいなので、技術の粋を集めて射出力と正確性を極限まで高めたボウガンで射たのだと想像できる。
そう考えると、テクノロジーを利用しながらも根本のところで矢文という古風な伝達法にこだわっているのがちょっとおもしろかったので、もう一歩踏み出して、パソコンのUSBポートにUSBメモリを直接打ち込んで中にテキストファイルっていうUSBメモ文にでもするとIT革命だと思った。
いまさらIT革命かよとも思うけど、矢文でメッセージを伝えるなんて時代遅れの男なら、最近やっとIT革命という言葉を自分のものにしたくらいに違いないのでタイミングは完璧。
ずーれた間ーの悪さもーそーれもきーみのタイミングー。っていうこの10年遅れの歌詞もそーれもきーみのタイミングー。
そんなことを考えて、矢がかすめた恐怖を紛らわせ、股間のちびりを乾かせたあと、壁を見ると、予想通りボウガン特有の短くて太い鋼鉄の矢が刺さっていた。世界がおれの予想した通りに変わっているんじゃないかと思ったが、いまは確かめようもないので、文を解くと、こう書いてあった。

菊地真は預かった! ダダルダダル!
さきっちょ埠頭で待っている
──ミラー・ヒカル

な、なにィー!? “ミラー・ヒカル”だって? ミラクルひかる*3の名で芸能界で活動している人物の裏の世界でのコードネームだ!
彼女は、視聴者の評判は上々だが、テレビ番組ではほかの出演者たちから絡みにくそうに扱われている。歌と風貌と仕草と声と喋り方、すべてが宇多田ヒカルそのものとなっているので、本来あるはずの素のミラクルひかるが完全に隠れてしまっていて、宇多田ヒカルでない人物から宇多田ヒカルらしいフレーズが発されるというモノマネ特有の差異がなく、言及する取っ掛かりがない。ただずっと宇多田ヒカルがいるだけ。
しかし、どれだけ宇多田ヒカルに感じられても、モノマネだと認知されている以上、そこに宇多田ヒカルの本質が存在しないことは明確なので、結果、鏡の中の世界を覗き込んでいるような印象となってしまう。手の届かない本物。コミュニケーションの取れないミラー。ヒカル。
しかし、もしモノマネだと知らなかったとしたら? ……「ウタピカだよー。トラベリングしようぜー」とか言って真をだましてさらえるのではないか。許せんぞ。待ってろ真!
君へと届きたい! 裸足のままで!
次回に続きたい! 転びそうでも!

*1:原田宇陀児というのはエロゲーのライターで、宇陀児は「うだじ」じゃなくて「うだる」って読む。要するに、うだるような暑さの意。狭い&ダジャレというひどい書き出しだけど、半年くらい前から暑くなったらこの書きだしにしたかったので、思いの強さに免じて許して!

*2:コリオリ力は、矢を矢文にする力。

*3:こちら注釈です。わたしテレビとか見ないのっていうひとはミラクルさんを知らないと思うので、そんな人にはhttp://jp.youtube.com/watch?v=mBd62ym4vYYが歌と喋りと周りの人のリアクションが4分に詰まってておすすめ。あとhttp://jp.youtube.com/watch?v=SdnvIzsSTC0宇多田ヒカル本人と共演してて大興奮なんだけど、最後に唐沢寿明が出しゃばって終わるのでえもいわれぬ後味です。