のヮの方舟からこんにちは

黄金の爪を持ち歩いているときにミイラと遭遇する頻度(三歩に一回)で転倒してしまう不遇の足回りとともに春香の生活*1はあるんだけど、彼女の職業はアイドルなんだ。ステージという日常から隔離された舞台に立てば、そんなドジ少女はどこへやら、転倒も accident もない完璧な踊りを見せてくれる。危うい音程と豊かな表現力とが織り成す心を打つ歌を聞かせてくれる。パーフェクトアイドルパーフェクトスターになる。私マーメイ。君とシャイニースマイル。みんな楽しく笑顔で舞台に立とう。歌が好きだから、喜んでもらえるのがうれしいから、と歌い続ける春香は、歌を聴くことに喜びを覚える観客とともに相乗的に盛り上がって、その恍惚がある一点を超えたとき、“のヮの”という表情を浮かべる。奇跡。それは奇跡の顕現。彼女の顔にスティグマータが浮かび上がったのだ。なんでそう思うかっていうと、そりゃもう神秘的奇跡的にかわいいからだ。そして、気づいてしまう。この浮かび上がった“のヮの”がスティグマータであるのなら、2000年前、十字架にはりつけられたYes♪キリストの表情もまた“のヮの”だったに違いないと。
とんでもないことになって来たぜと思いながら春香の“の”型の目が指す西の空に目をやると、巨大な方舟が浮かんでいた。観客たちは、「のヮの方舟じゃー。のヮの方舟じゃー」と声を上げ、母を見つけた迷子のような表情で一心に船に向かっていった。とんでもないことになって来たぜと再び思いながらも、おれも気づけば「のヮの方舟じゃー」と追従して船に向かっていた。方舟は東京ドーム四個分くらいの広さはあるようで、東京ドーム一個分の観客は余裕を持って全員が入ることができた。東京ドーム n 個分といういつもはピンとこない表現が的を射ているめずらしい瞬間だなーなどと関係ないことを考えていると、突如轟音がしたので、窓を見ると、あたり一面宇宙だった。地球は爆発したのだ。
さようなら、いままで魚をありがとう。←イマココ。

*1:余談だけど、そこから何度でも立ち上がるという経験が春香の不屈な明るさを作ったと踏んでいる