プレイヤー・ピアノ

機械の管理者や技術者の職を得て自己実現を果たしたIQの高い少数のエリートと、機械に職を奪われ管理されたディストピアで悠々と生活を送るIQの低い多数の市民(労働という生きがいを求める非体制派の者も少なくない)と、エリートと市民の間を揺れ動く主人公ポールと、外遊に来た中東あたりの国王(と書いてシャーと読む)御一行。彼らの生活小説
国王の旅行ガイドのハリヤード博士。こいつが作中、ある些細な出来事で、博士という地位から一瞬でぼんぼんくらくらなぼんくらにまで落ちぶれてしまう。全体的には冗長ともいえるような筆致で書かれた平坦な作品なんだけど、そのなかでこのハリヤードの失墜だけは刺激的で特にシニカルなので、際立って印象的だった。ちょっとしたことですべてを失う危うさよ。
ところで、あとがきにある文明批判うんぬんという部分については、あんまりそうは感じなかった。というのも、作中で描かれている体制への反感や葛藤やクーデターといったものは、この文明が対象でなくても起こりえるのではってのが理由。機械化された文明特有の良からぬ事件を挙げて、警鐘を鳴らしているというよりは、機械化された文明という舞台で、そのなかの様々な人々のありようというものをヴォっちゃんなりにイメージし、それを600ページに渡って書きこんだ、と考えたほうがしっくりくるわけです。事件はそのなかのひとつの流れに過ぎないと。ヴォっちゃんが実際どう考えたかは知りませんがね。

プレイヤー・ピアノ (ハヤカワ文庫SF)

プレイヤー・ピアノ (ハヤカワ文庫SF)