インフィニットアンディスカバリー

あまりにもストレートにネタバレをしているエントリーなのでさすがにたくさん改行した。十行くらい下から本文がスタ→トスタ→。

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本文

このゲーム、マップ上で座っていたりするとたまにキャラクターがひとりごとを言うんだが、あるとき主人公のカペルがこう言った。
 
「鏡を見るたび、シグムントさんを思い出す」
 
おれは耳を疑った。シグムントとはカペルに似た顔の故人だ。だからこの言葉は、自分の顔を見ていると自分と似た顔の故人を思い出して感傷に浸るという主張なのだ。
カペルは、自分と自分以外を区別していないのだろうか。主観を知っているはずの自分自身と、主観を知らない他人とを同列に語っている。自分と他人を区別するのが主観の存在だとするなら、それらを区別しないカペルは、主観を持っていないのではないかと思った。
なんの主張もないヘラヘラしたニートみたいな中身のない主人公だとは思っていたが、本当に中身がなかったのだ……。
いや、中身のないだけの主人公なら、ドラゴンクエストポケットモンスターもそうだ。プレイヤーに感情移入させるためにそうしていると開発者は語り、勇者とサトシは語らない。しかし、このカペルは違った。
語らないのではなく、「鏡を見るたび、シグムントさんを思い出す」と語る言葉に触れて、おれが想像した中身が虚無なのだ。
無をイメージするという矛盾じみた行為に底知れぬおそろしさを感じながらも、おれはこらえきれず身を乗り出し、カペルを深く覗き込むことにした。すると、無限の虚無の彼方に、シグムントさんがいるような気がしてきた。おれに似たシグムントさんが……。シグムントさん! 帰ってきてよ! どうしていなくなっちゃったんだよ! うう……。そう嘆き続け、気づいたときには夜は明けていた。40時間実績はもうすぐ解除だった。
依然シグムントさんは頭から離れずにいたが、顔を洗うべく洗面台に向かって、鏡を見ると、即座に我に返った。自分を思い出した。